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双生児法の論文について

さて、「学力は遺伝である」という論法の根拠として有名な双生児法について紹介してみようと思います。

目次

双生児法の論文概要

双生児法と呼ばれる手法があります。
一卵性は殆ど100%の遺伝子、二卵性は約50%程度の遺伝子が共通である。
そして外部環境も同じ家庭で同時期に育つ事から概ね同様である。
だから 一卵性と二卵性に差が生まれたとすれば、それは遺伝的なものである。
このような論法です。
一卵性では相関があるけれど、二卵性では相関が無い。このような点に注目して遺伝的要因の有無を結論付ける。

このような検証手法の事を双生児法と呼んでいるようです。

「学力は遺伝である」

と言う論法を説く方の多くは双生児法に基づいた実験結果を根拠としています。

安藤氏の論文が良く引用されているようですね。

さて、本論文の概要は以下の通りです。

サンプル数

一卵性二卵性母集団
小学低学年357組436組約300万人
小学高学年340組351組約300万人
中学生280組195組約320万人
高校生232組180組約300万人

評価基準

「算数・国語で良い成績をとっている」

というアンケートに対し

■あてはまらない
■どちらかといえばあてはまらない
■どちらかといえばあてはまる
■あてはまる

のいずれかで解答する。
解答者は
小学低学年は親のみ
小学高学年以上は 親と子自身

一卵性双生児の組の評定の一致率、二卵性双生児の組の評定の一致率を比較し一卵性の方が一致率が高ければ遺伝の影響が強いと考える。

結論

リンク先より引用

子ども自身にとってみれば遺伝的資質はどうあれ、できるだけ長い時間勉強せよ、そして宿題や予習復習に手を抜くな。そうすればあなたの家庭なりに、そしてあなたなりに、成績を数%くらい高めることができる可能性があるということである。 

子どもへの無償の愛情に支えられた親の教育的投資や学習環境の配慮は、もちろん全く効果をもたないわけではないことが本研究から示された。しかしそれは遺伝の影響が50%に対して5~10%である。遺伝的素質があっても恵まれた環境にいなかった人や努力しなかった人と比べると、素質に恵まれなくともよい環境にあった人、がんばった人が入学試験で勝つこともあるかも知れない。それが実際に成功するかどうかは賭けである。絶対勝てるとも絶対に負けるともいえない。ただ蓋然性からみると、素質がなければ負ける確率は高いと推定することまではできる。科学が言えるのはそこまでだ。そこから先は、冷静な判断と無謀な覚悟の狭間の世界である。

引用終わり

Sharari-manの本論文に対する所感

サンプル数について

サンプル数はやや少ないと言えるでしょう。
許容誤差5%、信頼度95%にやや足りない水準です。

評価基準について

こちらについては

Okusama

良く見かける「学力は遺伝」の根拠ってこんな試験方法だったの・・・・?

Sharari-man

このように思われた方が多いのではないでしょうか?

そうなんです。色々と議論の余地がある評価手法です。

まずその成績が 学校での成績なのか あるいは 塾での成績なのか が不明です。

さて、ここで論文を見ると、塾を含む学習時間の評定の平均値が 0〜60分/日 となっております。
少なくとも中学受験塾に通っている層や家庭学習に一生懸命取り組んでいる層では無い事が分かります。
ましてや難関中学受験をする層ではないでしょう。恐らく多くが学校の宿題をやっているだけの層だと予想されます。

よってこのアンケート結果は塾ではなく小学校の成績である可能性が高いでしょう。
結果を見ると、算数/国語の成績は一卵性が二卵性に比べ顕著に相関が高いという結果になっています。
この結果に基づき、遺伝が学力に及ぼす影響度は高いという主張を安藤氏はされています。

Sharari-man

本当にそうでしょうか?

親評定、子自身の評定を見ると親評定の方は明らかにバイアスがかかっています。
「一卵性だから似ているだろうバイアス」です。認知バイアスですね。
安藤氏も認知バイアスの存在を論文内で認めているにも関わらず、「学力は遺伝である」と結論付けているのは不適切に思えます。
また、本論文には中学・高校生のデータも記載されています。
中学・高校生の自己評定の結果では遺伝との相関は随分低くなり、相関係数は0.2〜0.5程度となっております。
学年が上がるにつれて、環境要因が強くなったという結果です。

相関係数が0.2~0.5程度では 『強い相関がある』 とは言えず 『遺伝と多少関連がある』 というレベルです。

論文の著者である安藤氏はこの結果について「不可解な結果」と述べておられます。
宿題や予習をするのも遺伝である とも述べられております。
これらの発言から安藤氏には【全て遺伝だと言いたいバイアス】を感じます。

これは研究者が必ず、意識的に抑制しなければならないバイアスです。
研究者は出て欲しい結果に必ず引きずられます。なぜなら結果が出ると嬉しいですし、自身の評価にも繋がりますからね。

さて、この評定結果が適切だと仮定したとしても以下のような事が言えます。
小学校の現学年の学習内容はそれほど高度な内容ではありません。
家庭学習に取り組んでいる皆様であればご理解頂けると思いますが、大変平易な内容です。

平易な内容を学ぶにあたっては遺伝的な影響が強いが、高度な内容(中学,高校)になるにつれて遺伝的な影響は弱くなる。

受験算数、高校数学、大学数学を自学自習無しで、学校の授業を聞いただけで理解出来る人なんて殆どいないはずです。

主体的に学んだ結果、得られる能力です。小学校の学習内容の理解度(しかも定性評価)だけを見て「学力は遺伝だ」とするのは余りに乱暴です。小学校の学習レベルであれば『才能』なんてものが無くても学習時間でカバー出来る事は明らかですし、家庭学習に取りくんでいなければ担任の先生のスキルで容易に変化するものです。

学業の評定に定量評価を用いなかった事も疑念が残ります。
他の教育機関に協力を仰ぐ、通知表や模試結果のコピー送付依頼など色々な方法が考えられますが、何故そのような手法を取らなかったのか不明です。
※論文中では「保護者の負担を減らすため」とありますが、アンケートを読み記入するよりも通知表を携帯で撮影してアップロードした方が楽なように思えます。どちらも個人情報である事には変わりがありませんし。

以上の事からSharari-manは以下のように考えます。

  • 親、自身の評価には認知バイアスがかかっているため相関が強めに出る可能性が高い。
  • 本論文の評価基準、評価手法では高度な内容を学ぶにあたり遺伝が重要なファクターである事は証明出来ない。
  • 定量評価を用いていないため、評価結果の信頼性は低い。

結論について

結語によれば一生懸命努力しても素質が無ければ成績は数%しか上がらない

という主張をされています。
また、「素質が無ければ受験で負ける確率が高い」と仰られています。
受験成績と相関の低い指標である、学校の成績に基づいた定性評価をしておきながら、このような結語を権威ある方が発信するのは少々乱暴です。完璧にミスリードでしょう。

【補足】
学校の成績は受験結果と相関は高くありません。
例1)小学校の通知表がオール5のお子様でも中学受験算数の勉強をしていなければ受験算数は解けません。
例2)進学校でない高校ではそもそも高度な内容を学ばない事があります。理系で数Ⅲの授業が殆ど無い、文系で社会が二科目無いなど。
ある学校1校だけの成績を集めて比較すれば相関は多少あると思いますが、無作為に選んだ複数の学校では学校の成績と受験学力の相関は低いはずです。
例3)開成中学でオール5の中学生と地方公立中学でオール5の中学生。学力レベルは異なるはずです。

また、一生懸命努力した結果、テストの得点率が倍増したという実績なんて世の中にいくらでもあるはずです。
算数道場でもありますし、甥っ子もそうです。
読者の皆様におかれましても身近にそのような事例は多くありませんか?

以下の記事の折田さんもそうでしょう。少なくとも数%の伸びではないはずです。

いかがでしょうか?

さて、『行動遺伝学』の分野では安藤氏は著名な方のようです。
慶応義塾大学の名誉教授ですし、数々の実績を残されたのでしょう。

私の読み解き方が甘いのでしょうか?
この論文のデータをどう読み解いても『学力は遺伝である』という結論に至る事が出来ません。
得られる結論としては・・・・
『短い家庭学習時間の御家庭で小学校の学校の成績というカテゴリについて親が自己申告で評価した場合、一卵性双生児の方が二卵性双生児よりも学力の一致率が高い。
よってそのカテゴリにおける学力については遺伝による影響があると言える』
このような内容になろうかと思いますが、いかがでしょうか?

また、中学受験レベル、難関高校レベル、難関大学レベルの学力と遺伝との相関を検証していないのに、「受験で勝てない」という結論になっています。

行動遺伝学の論文の世界ではこのような論法が許されるのでしょうか?

以前からこの分野の論文は色々と読んでいるのですが、中々『これだ!』という論文に出会えません。

アメリカの論文も色々と読んでいるのですが、イマイチ納得出来ないものが殆どです。

本分野の論文調査は継続的に続けて参りたいと思います。

あとがき

さて、とりあえず双生児法関連の記事を出してみました。

Sharari-man

Sharari-man自身は「受験レベルの学問であれば遺伝的な才能の寄与率は低い」という主張ですから、本記事の意見はややバイアスのかかった意見である事を御承知おき下さい。

今後は調査が進み次第、この記事に書き加えていく予定です。

我が家の学習事例が少しでも家庭学習に取組む皆様の御参考になりましたら望外の喜びです。

ではまた!

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この記事を書いた人

日本で働く技術者です。
ブログ運営目的は我が家の学習情報提供を通じた社会貢献です。
地域貢献を兼ねて地域限定で算数の個別指導を行っています。

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